3Dプリンティングが可能にする革新的な熱管理ソリューションとは?

3Dプリンティングが可能にする革新的な熱管理ソリューションとは?

電気部品を使用した製品を設計する場合、効果的な熱管理は非常に重要です。3Dプリンティングによって、よりコンパクトで効率的な熱交換器を作成することで、熱管理の取り組みを次のレベルに進める方法をご覧ください。

nTopology
September 1, 2022


今日の機器の電源、トランスミッション、電子サブシステムから発生する熱は、かなりの量になることがあります。それはつまり、効果的な熱管理はあらゆる電子機器やシステムにとって重要な設計上の考慮事項であるということです。しかし製品がますます複雑になるにつれ、その熱管理はより困難になってきています。

3Dプリンティングとしてよく知られるアディティブ・マニュファクチャリングは、熱管理へのアプローチをレベルアップする機会を提供します。厳しく要求される製品のスペース、重量、および製造性の要件を満たす高性能熱交換器(HEX)を作成することができるのです。

この記事では、アディティブ・マニュファクチャリングが熱管理性能に与える影響、熱交換器設計におけるアディティブ・マニュファクチャリングの利点、および最適な熱管理を促進するためにアディティブ・マニュファクチャリングを適用したいくつかの例について探ります。


アディティブ・マニュファクチャリングが熱管理に与える影響

nTopologyで設計されたジャイロイドコアを搭載した産業用AM熱交換器。

熱管理により重要なコンポーネントから余分な熱を逃がすことで、製品の寿命を延ばし、信頼性を向上させることができます。

ところが熱管理ソリューションに利用できるスペースは限られていることが多いでしょう。アディティブ・マニュファクチャリング(AM)は、より効率的でコンパクトな熱交換器を実現する道を提供し、スペースと重量の要件を満たすことができるようにします。これは、AM技術に関連する設計の自由度により、従来の方法では製造不可能なことが多い複雑な内部チャンネルやジオメトリを持つ熱交換器を作成することができるためです。

つまり、アディティブ・マニュファクチャリングによる熱交換器は、アプリケーションの特定のニーズを満たすことができ、様々な熱管理上の課題に対する理想的なソリューションとなるのです。


熱交換器設計におけるアディティブ・マニュファクチャリングのメリット

熱伝達効率の向上

AMによる複雑かつ革新的な構造を製造することで、熱伝達の非効率性を解決できるようになります。ラティス構造は体積に対する表面積の比率が高いため、熱交換器として人気があります。この設計は、より小さなスペースでより多くの熱伝達を可能にします。

ジャイロイドのような三重周期極小曲面(TPMS)ラティスは、熱交換器の設計に最適な候補のひとつです。アディティブ・マニュファクチャリングは、性能、重量、サイズ、製造性の要件を満たす、複雑で高度に最適化された構造を作る作成するのに理想的であります。

Gyroid TPMS lattice structure.
圧力損失の低減と流量の向上

アディティブ・マニュファクチャリングでは、流量や圧力損失などの特定の性能要件を満たすために、新しいシェイプ最適化技術を適用することができます。例えば、流体の流れをスムーズにするために特別に設計された入口や出口を作り、流速がゼロになるデッドゾーンをなくすことができます。この設計により、熱交換器の圧力損失を大幅に低減することができ、より効率的な熱交換が可能となります。

さらに、CFDシミュレーションで熱交換器内の流路を決定すればその流路に合わせたシェイプを生成し、高度に最適化されたラティス構造を実現することができます。このような構造は、従来のプロセスでは製造不可能な場合がほとんどです。

品質の向上

AMでは、熱交換器を一つのボディとして製造することができるため、成形、組み立て、ろう付け、溶接などの工程が不要になります。アセンブリを1つの部品に統合することで、一般的に懸念されている潜在的な漏れや故障の領域を最小限に抑え、熱交換器設計の耐久性と信頼性を向上させることができるのです。そしてまた、在庫や人件費などのコストも削減することもできます。


熱管理の用途と3Dプリンティング

アディティブ・マニュファクチャリングは、さまざまな産業や用途に適用でき、熱交換器設計へのアプローチを根本的に変えようとしています。以下に、アディティブ・マニュファクチャリングと先進のエンジニアリング設計ソフトウェアを組み合わせて、熱管理の大幅な改善を実現した例をいくつか紹介します。

補助電源ユニットのケーシング冷却
nTopologyで設計された冷却チャンネルが組み込まれたマイクロタービンの筐体。

KW Micro Power社は、高出力密度の補助電源ユニット(APU)を開発しています。これらのユニットは民間航空および軍事用途で使用するために設計されています。航空機やドローンなど、1グラム単位の改善が求められる用途では、性能を維持したまま軽量化することが非常に重要となります。

KW Micro Power社が航空宇宙グレードの高出力密度小型ターボジェネレータのハウジングを金属AM用に再設計しようとしたとき、主な目標としたのは品質と安全性を維持しながら熱性能を向上させることでした。

3Dプリント用に部品を再設計することで、KW Micro Power社のチームには新たな可能性が生まれ、空(から)のシェルをコンフォーマル冷却チャネルに変換することができました。これにより、ジェネレータの熱管理は大幅に改善されました。

その結果、コンフォーマルチャネルを採用した多機能かつ軽量な部品が完成し、最高動作温度を33%、重量を44%削減することに成功したのです。その結果、マシンの寿命が延び、システム全体の効率も向上しました。

燃料冷却式オイルクーラー
nTopologyで設計された航空宇宙グレードの燃料冷却式オイルクーラー

オイルクーラーは、多くのエンジン、特に産業プロセスや発電設備で使用されるエンジンで重要な役割を担っています。その主な目的は、エンジンオイルを冷却することでエンジンをオーバーヒートから保護し、最適なパフォーマンスを確保するのを手助けするためです。ところが、小型化目的や車両システム等にとっては従来のシェル&チューブ式オイルクーラーは大きすぎたり重すぎたりして、搭載できないことが多いのです。

このような場合、ジャイロイドTPMSコアを搭載したAM型の熱交換器が解決の糸口となります。上の写真の燃料冷却式オイルクーラーは、従来のシェル&チューブ式熱交換器を、HRL研究所が開発した新しいアルミニウム合金添加剤を使用して、ジャイロイドTMPSコアの3Dプリントによる代替品に置き換えたものです。このソリューションの最大の狙いは、伝熱面積を一定に保ったまま冷却器を小型化・軽量化することでした。

この目的を達成するために、チームはnTopologyの高度なソフトウェアとANSYSスイートによる流体および共役熱伝達シミュレーションを活用し、80%の軽量化を実現した高性能熱交換器を設計することができました。

これほどの軽量化にもかかわらず、全体の単位質量あたりの熱伝達率はほぼ1桁高くなりました。この新しい設計は、ASTMの品質基準をすべてクリアしています。

冷却プレート
nTopologyで設計されたGPU冷却プレート。

AMを用いて冷却プレートの熱交換器設計を改善する方法は多くあります。その1つがラティス状のコアを使用するアプローチで、全体のサイズを大きくすることなく、熱伝達率を高めることができます。この設計は、特にインバーターやGPUなどの電子機器の冷却に有効です。

シミュレーションを使用しながら設計プロセスを進めることで、冷却プレートが最適に機能することを確認できます。このプロセスはデバイスの効率を向上させ、不適切な冷却システムから生じる潜在的な問題を防止するのに役立ちます。

TEMISTh社のチームは、この方法を用いて熱伝導率を向上させたコンパクトな冷却プレートを作製しました。彼らはこの設計をアルミニウムで製作し、実際の条件下でテストを行いました。その結果、この冷却プレートは大きな負荷がかかっても、電子部品を効果的に冷却できることがわかりました。

この革新的なアプローチによる冷却プレート設計は、さまざまな電子機器の性能向上に活用・改良することができます。


より良い熱交換器を設計するためのソフトウェア

Design exploration of heat sink geometry using a systematic computational DoE approach in nTopology.

熱管理におけるアディティブ・マニュファクチャリングのメリットを最大限に引き出すには、高度なエンジニアリング設計ソフトウェアにアクセスする必要があります。nTopologyは、インプリシット・モデリング、フィールドドリブン・デザイン、コーディング不要の自動化機能により、エンジニアリング設計に革命をもたらす強力なツールです。

nTopologyの主な熱管理機能は以下のとおりです。

  • 業界最先端のラティスデザインを取り入れ、数十億のエレメントに拡張可能。
  • 線形、非線形、熱応力、過渡熱解析により、熱交換器とその周辺部品の熱性能を迅速に測定。
  • 新しい設計候補やメッシュを作成し、迅速な反復、またはCFDコードでの仮想検証を行うためにDiscovery Liveに送信。
  • STLファイルのサイズ制限を回避するためにインプリシット・ボディから直接マシンデータをスライスしてエクスポート。またはメッシュを公差や閾値まで簡略化し、STL・OBJ・3MFとしてエクスポート。
  • booleanユニオンですべてのフィレット半径を制御し、質量と表面積の両方を正確に計算。
  • ヒートマップや流れ場(field-driven pins & finsなど)からフローや熱のガイドを生成し、仮想バッフルを使用してフローを過度に制限することなく制御。

nTopologyを使用すれば、アディティブ・マニュファクチャリングの機会と設計の自由度を引き出し、お客様の製品のための次世代熱交換器を作成することができます。

アディティブ・マニュファクチャリングがどのように熱管理の取り組みをサポートするかについては、当社の熱管理ガイドをお読みください。


キーポイント

  • 製品への要求が高まるにつれ、熱管理への要求も高まっています。
  • 3Dプリントは、熱交換器が仕様通りに機能することを保証しながら、サイズ、重量、および製造性の要件を満たすのに役立ちます。
  • 適切な高度エンジニアリング設計ソフトウェアを使用すれば、厳しい要件を満たす必要がある場合でも、アディティブ・マニュファクチャリングのメリットを最大限に活用することで最適な熱管理を実現することができます。