グアテマラのジャングルを世界最先端の3Dプリント義足で歩く

Case Stady

グアテマラのジャングルを世界最先端の3Dプリント義足で歩く

LifeNabled社のボランティアとデザイナーは、完全にデジタル化されたワークフローを作成し、柔軟なインナーライナーを備えたカスタムメイドの3Dプリント義足ソケットを製作しました。現在、グアテマラのジャングルにいる35人の患者が、世界最先端の義肢装具をつけて歩いています。

ドナーやスポンサーからの資金提供を受け、チームは過去15年間、グアテマラの最貧地域で年2回の無料診療を続けています。限られた時間の中では、従来の製作方法を用いることは大変な作業となっていました。

そこで前回の診療では、従来の製作をやめ、すべてをデジタルで行いました。患者のスキャンデータを入力して、nTopologyで義肢ソケットのデザインを自動生成し、そしてHPのMJFによって耐久性のあるTPUで3Dプリントしたのです。

この新しいデジタルワークフローにより、チームは3日以上もの労働時間を節約することができました。このプロセスは世界の他の地域でも再現できるため、発展途上国の切断患者の生活の質を大幅に向上させることができます。

キーポイント
  • 3Dプリントのフォーム:従来のフォームの特性を模倣した、カスタム特性を持つ柔軟なラティス構造を設計することができます。
  • 3Dスキャンデータ:患者固有のデータと再利用可能なワークフローを活用し、大規模なカスタム整形外科デバイスを作成します。
  • 設計の自動化:nTopology の再利用可能な設計プロセスにより、繰り返しの設計作業を自動化し、時間を節約することができます。
事業価値
  • 効率的な運用を実現:設計自動化により、貴重なエンジニアリング時間を節約し、設計処理の規模を拡大することができます。
  • ノウハウの共有:エンジニアリングの専門知識を再利用可能な設計ワークフローに取り込み、チームや組織全体で共有することができます。
  • より高性能な製品:デジタルプロセスを活用した次世代の高度な整形外科用デバイスを開発できます。

Key Statistics

納品したデバイス数
グアテマラに35人分

設計時間
自動処理で1日

製造時間
3日間のデジタルファブリケーション

カスタマイズ
3Dスキャンデータに基づく

製造
HP MJF

素材
TPU

バックグラウンド

Brent Wright氏は認定義肢装具士です。妻のMeredith Wrightとともに、米国ノースカロライナ州ローリーを拠点に、発展途上国向けに義肢装具のソリューションを提供する非営利団体「LifeNabaled」を共同設立しました。

Brent氏と彼のチームは、グアテマラ北部で義肢装具の治療を受ける余裕のない切断者の生活を変えています。隔年ごとに開くクリニックでは、過去15年間で数百人もの患者を治療してきました。

しかし、義肢の製作は高度な技術を要する仕事です。1週間のクリニックで30~50人の患者を診断し、義肢の製作・義肢を装着することは、Brent氏とボランティアチームの肉体的負担となっていました。

そこで最新のクリニックでは、彼らは義肢製作とアディティブ・マニュファクチャリングの長年の経験を活かして、完全にデジタル化されたワークフローを開発しました。このケーススタディでは、3Dスキャンから設計・製造まで、患者のデータをもとに3Dプリントでカスタムメイドの義肢ソケットを、コスト効率よく製作するためにとった手順を紹介します。

義肢を購入することができなかった人々が、今では世界最高の装置を手に入れることができるのです。nTopologyがなければ、このようなことは不可能だったでしょう。

Brent Wright, Co-Founder and Clinical Director at LifeNabled

従来の方法と、デジタルファブリケーションの比較

従来の義肢製作は、手間のかかる作業でした。ソケットは患者一人一人に合ったものを提供する必要があるため、製作はすべて手作業で行われます。通常、このプロセスには3つの段階があります。

  • 義肢装具士が診断時に、患者の切断部の型を取ります。
  • そして、その鋳型を使って、ソケットを熱成形するためのカスタムモールドを作ります。このソケットを市販の部品と組み合わせて、義肢を製作します。
  • 最後に、義肢装具士が患者に義肢を装着し、良好な装着感を得るために必要な調整を行います。

Brent氏のビジョンは、設計と製造のステップを完全にデジタル化することでした。これらの工程は、義肢の製造工程の中で最も専門性を要求される段階です。また、デジタル化することで、診断とフィッティングのステップを行うためにチームが現地の人々を訓練し(またはビデオ通話で指導し)、専門家が遠隔地に立ち会う必要をなくすことができます。

コンセプトの実証として、チームは前回のクリニックでは従来の製造方法をやめ、完全にデジタル化されたプロセスを用いりました。ワークフロー全体をデジタル化することで、プロセスの拡張性とコスト効率を可能な限り高めることが可能となりました。

この新しいデジタルワークフローの概要をご紹介します。

  • まずチームメンバー2名がグアテマラに飛び、3Dスキャンを行いました。わずか2日間で、35人の切断患者を評価することができました。
  • その後、2週間かけてBrent氏は各デバイスを設計・カスタマイズし、HPのMJF 3Dプリント技術を使ってソケットを製造しました。
  • そして1ヵ月後、再びグアテマラに戻りデバイスを届け、患者さんに装着してもらったのです。

その結果は驚くべきものでした。すべての患者さんが、世界最先端の義肢を装着して歩いて帰られたのです。しかも、このチームはわずかな労力でこの結果を達成したのです。Brent氏は「その期間、我々はとてもハードに働いたが、スマートに働けたこと、そして必要なスキャンを簡単に取ることができた。戻ってきた時には、ワークフローのデジタル化の価値が確かなものであったと実感できたよ。」と述べました。

3Dプリントによるフレキシブルなインナーライナー

インナーライナーは義肢に不可欠なパーツです。ソケットは、作業中や長時間の使用でも快適でなければなりません。さらに、衛生面を考慮すると、通気性の良いものでなければなりません。「特にグアテマラのジャングルでは、義肢が呼吸できるほどの通気性が必要になります。」と、Brent氏は述べています。

しかし、従来のジェル状のインナーライナーは通気性が悪く160ドル以上もする上、グアテマラの熱帯気候では寿命が3〜6カ月と限られていました。このコストは1日2〜3ドルで生活する現地の人々にとって、法外に高価なものなのです。

Brent氏のチームは、高価なライナーをニットソックスに変えたいと考えていました。靴下はとても手頃な価格で通気性がよく、簡単にカスタマイズでき、洗濯もできます。快適性を確保するために、チームは3Dプリントしたフォーム(発泡体)を利用した柔軟性のあるソケットライナーを設計しました。

nTopCLを使用したバッチ処理は、手動ではデータ処理の時間のかかるステップを自動化する

3Dプリントフォームは、従来のフォームの特性を模倣した柔軟なラティス状の構造体です。TPUのような弾性材料で製造され、従来のフォームよりも多くの利点があります。

例えば、患者の生理や好みに合わせて、柔らかいフォームから硬いプラスチックまで、その特性を調整することができるのです。この効果は、nTopologyのような高度な工学設計ソフトウェアを用いて、ビームの厚さや空隙率など、ラティスの設計入力パラメータを綿密に制御することで実現できます。

3Dスキャンから製造まで

望みのクッション性を実現するために3Dプリントされたフォームの設計パラメータを決定しても、それを30以上のカスタムソケットの設計に適用することは困難です。nTopologyがなければ、このステップはBrent氏によれば「残酷なプロセス」となるものだったでしょう。nTopologyを導入する前に使用していたレガシーソフトウェアでは、結果を出すのに何時間もかかってしまうことがよくありました。

カスタムメイドのフレキシブルなインナーライナーの設計は、nTopology以外のソフトウェアで行うとなると、困難な作業になりそうでした。nTopologyであれば、ワークフローが完成したら、その後はメッシュを入れ替えるだけです。プロセスは何度も何度も実行されました。

Brent Wright, Co-Founder and Clinical Director at LifeNabled

ワークフローは半自動化されており、簡単に導入することができます。以下はその概要です。

  • 患者の3Dスキャンデータのメッシュを入力として、まず厚みを変化させたシェルを生成しました。
  • そして、nTopologyのラティシング・ブロックを使って、必要なレベルのクッション性を備えた柔軟なインナーライナーを作りました。
  • このプロセスを繰り返し、新しいデザインを製造する際には、別の患者の3Dスキャンデータを使って新しい入力メッシュを入れ替えるだけでよいのです。

nTopologyの再利用可能なワークフローにより、チームは設計段階でのエラーを起こしやすい計算処理を丸一日以上短縮し、より高品質かつエラーのない結果を得ることができました。

製造にはHPのMulti Jet Fusion 3Dプリントプロセス、素材はTPUを選択しました。このプロセスと素材の組み合わせは、柔軟なラティス構造を製造するのに優れており、パッドの厚さを変えることができます。TPUは耐久性にも優れているため、グアテマラのジャングルに最適な選択です。

このデジタルプロセスにより、2~3日の製作期間を短縮し、手間のかかる手作業を合理的なデジタル製造に置き換えることができました。

暮らしを変える

これは技術的な成果という枠を超えて、人間の物語である。グアテマラのこれらの地域では、義肢装具の治療・ケアを受けることはほとんど不可能です。切断された人々の大半は1日数ドル以下で生活しているため、義肢を購入するという選択肢はないのです。

Brent氏のチームはこのような診療を長く続けているため、義肢が患者の人生をいかに変えるかを目の当たりにしてきました。

例えば15年前、まだ3歳だった幼い子どもの治療を開始しました。この子の場合、四肢が切断されたり、先天的に欠損していたりと、深刻な状態でした。

義肢がなければ、貧困や路上での物乞いの生活を余儀なくされるところでした。それがいま青年となった彼は会計士になるために会計学校に通うことになり、家族を養うことも可能になったのです。

次のステップ

Brent氏の目標は、発展途上国向けに義肢装具を提供するグローバルネットワークを構築することです。nTopology のようなデジタル製造・工学設計ツールを使えば、この夢は実現可能です。

義肢を必要とする人は世界中に何百万人もいます。そのすべてに手を差し伸べるには、チームワークが必要なのです。これは人間の物語です。人間からどうやって利益を得るかという話ではない。どうやって人々を歩かせるかという話なのです。

Brent Wright, Co-Founder and Clinical Director at LifeNabled

産業用の3Dプリントシステムは世界中にあり(もちろん発展途上国にも)、必要な義肢を製造するために活用することができます。現地の医師は、患者の診断と義肢の装着について、ビデオ通話でトレーニングを受けることができます。義肢のデザインは、Brent氏のチームが開発した自動化されたプロセスで作成することができます。

技術的な観点からも、Brent氏はコスト効率をさらに高めるために、設計を改良し続けています。例えば、彼のチームは現在、フィールド・ドリブン・デザインのアプローチを用いて、シミュレーション主導のジオメトリーでより軽量なソケットを作成しています。