Impact Footwear、設計自動化とArchitected Materials*を活用してカスタマイズ可能なビーチサンダルを12ヶ月以内に市場に投入

* Architected Materials (アーキテクテッド・マテリアルズ) ：ラティスのセル構造パラメーターを場所毎の要件（荷重など）に合わせることで、目的に対して最適な特性を保持した材料として扱うことができる、という概念を用語化したもの。

コンシューマ製品のマスカスタマイゼーション

ImpactFootwearの創設者であるCraigDeMerit氏がビジネスアイデアの開発に取り組み始めたとき、彼には明確な目標がありました。それは、消費者向けにパーソナライズしやすく、人の介入を最小限に抑えてオンデマンドで製造できる、カスタマイズ可能なビーチサンダルを作ることでした。彼は一般的な技術的バックグラウンドと小売市場に関する深い知識を持っていましたが、CADや機械設計の経験はゼロでした。それでも、12ヶ月後には彼の製品が市場に出回り始めました。

コンシューマ製品のマスカスタマイゼーションは、多くの人が実現しようとしてきた課題です。 しかし、経済的に可能な方法で規模を拡大できるビジネスモデルを開発することは容易なことではありません。Impact Footwearは、小売向けマスカスタマイゼーションのための解決策をいち早くもたらした人間の一人かもしれません。

彼らのアプローチは、製造と設計の自動化における最新のアドバンテージを活用しています。チームは運用コストを最小限に抑えるために、設計と発注のプロセスを完全に自動化しました。また、彼らは従来のフットウェアの材料の特性を模倣した、フォーム素材のようなラティス構造を開発しました。最後に、彼らはアディティブ・マニュファクチャリングを活用して在庫を最小限に抑え、製品開発プロセスの柔軟性を維持しました。

nTop Platformの高度なモデリング機能とnTopCL (nTop Command Line modeの略)のプログラムインターフェイスは、この新製品の開発において重要な役割を果たしました。このケーススタディでは、Impact Footwearがこれらの機能をどのように活用して、独自のプロセスに適用するように促したかについて説明します。

世界初のカスタマイズ可能なビーチサンダル

消費者小売業界におけるマスカスタマイゼーションの成功例が少ないのは当然のことです。製品を市場に投入する前には、サプライチェーン、物流、設計の課題があります。言うまでもなく、経済的に実行可能であることを確認する必要があります。

製品の1つ1つが特殊な場合は、大量生産品の単価に比べて、1つあたりの製造コストが大幅に高くなります。しかし消費者の観点からは、見返りに十分な付加価値を受けられるのならば、より高い価格帯であっても構わないでしょう。

Impact Footwearのビーチサンダルでは、ユーザーの入力に基づいて30種類のデザイン数を用意することで、この付加価値を生み出しています。Webベースのコンフィギュレーターを使用して、顧客は様々なオプションから選択することでサンダルのデザイン性と機能性の両方を考慮することができます。例えば、サイズや色を選んだりラベルを貼ったりするだけでなく、インソールの柄やミッドソールのスタイル、アウトソールのトラクションの質感なども選ぶことができます。

Impact Footwearが提供する最も特徴的なカスタマイズオプションは、つま先、アーチ、かかとの3つのゾーンごとに異なる剛性レベルを指定できることです。

ソール全体が同じ素材から3Dプリントされているため、Impact Footwearはサンダルのミッドソールにラティス構造を施すことで、この効果を実現しています。その結果、ユーザーのライフスタイルに合わせてカスタマイズできる高耐久性のビーチサンダルが誕生しました。

フォーム状ラティスの開発

Impact Footwearのラボでは、15種類のラティス構造をテストして、現在のフットウェア業界で使用されている従来の素材と同等の特性を持つ設計を特定しました。目標は、ゲルフォーム、EVAフォーム、注入ゴム、シートフォーム、硬質プラスチックと同じ圧縮特性を持つArchitected Materialsを作ることでした。ラティスの構造を綿密に制御することで、Impact Footwearは素材の反応を変化させることができました。

この設計決定の背景にあるロジックは単純でした。この用途に適したSLSの3Dプリント素材はTPEだけですが、それだと硬い形状では履き心地が悪く感じます。さらに、複数の製造工程を経ることは問題外です。設計における重要な要件の1つは、コストのかかる手作業での組み立てや接着の工程を省くために、ソール全体を1つのパーツとして製造できることでした。TPEをベースとしたArchitected Materialsの開発がその答えでした。

Architected Materialsは、製品開発の流れを根本的に変えます。従来、材料の特性は決められたものであり、変更することはできません。ところがArchitected Materialsを使用すると、製品の構造を変更するだけで、製品の動作を柔軟に変更することができます。これにより、新しい情報や設計要件の変更への、後からの対応等が可能になります。また、Impact Footwearのケースにおいては、ユーザーの特定のニーズに合わせて製品をカスタマイズしたりすることもできるのです。

Impact Footwearでは、nTop Platformの高度なラティス作成機能を使用することで、これらを成し遂げることができました。新しいラティス構造を数秒で生成し、競合するラティス作成ソフトウェアの9倍の速さで描写することができるため、設計チームは新しいアイデアを迅速なペースでテストし、より速く反復作業を行うことができました。

クラウド上での設計

もし手作業で行った場合、デザイナーが新しい注文の準備と処理をするためには、1つのサンダルにつき最低でも1時間はかかるでしょう。これは生産工程に時間と運用コストを追加することになり、サンダルの価格は不当に高いレベルに押し上げられることになってしまいます。

そこでImpact Footwearでは、完全に自動化された拡張性のある設計生成と発注システムを構築しました。実際に、注文を受けてから新しいデザインを作成し、メーカーに送信してオンデマンドで生産するまで、プロセスのすべてのステップを完全にハンズフリーで行うことができます。

このようにして、Impact Footwearは、1日に100件でも5,000件でも、どのような注文にも対応できる柔軟性と拡張性を備えたシステムを構築しました。

プロセス全体はクラウド上で実行されます。その中心には、nTopCLの設計自動化機能があります。nTopCLはnTop Platformのコマンドラインインターフェイスであり、ユーザーがメインソフトウェアのユーザーインターフェイスを開かなくても、スクリプトを使用してnTopデザインワークフローを実行できるようにします。今回のケースでは、nTopCLはクラウド上で高度なジオメトリ計算マイクロサービスとして機能します。

新しい注文を受信すると、Microsoft SQL Serverスクリプトが起動され、nTopCLコマンドを呼び出します。注文仕様を入力として使用して、スクリプトはカスタムデザインを生成するnTop Platformのデザインワークフローを再実行します。するとSTLファイルが作成され、メーカーに転送されます。メーカーはその後、サンダルを3Dプリントして後加工し、顧客に送ります。注文してから1日以内に3Dプリントされ、翌日には顧客に出荷できる状態になっているのです。

Impact Footwearが作成したこの完全自動化システムの成功の鍵となったのは、nTop Platformの比類ないスピードでした。開発プロセスの早い段階で、Impact Footwearは他の類似ツールをテストしました。しかし、新しい設計を処理してSTLメッシュを生成するのに90分以上かかりました。nTop Platformでは、生産準備の整ったSTLファイルを生成するのに10分もかかりません。

なぜnTop Platformを選んだか

Impact Footwearが開発プロセスでテストした設計ソフトウェアは、nTop Platformが初めてではありませんでした。Craig DeMerit氏に、なぜnTop PlatformとnTopCLをソフトウェアソリューションとして選択したのかを尋ねました。Craig DeMerit氏の回答は以下の通りです。

使いやすさ
「私は一般的な技術的バックグラウンドを持っていますが、このビジネスを開始するまでCADの経験は持っていませんでした。我々は、ユーザーフレンドリーで、私のような3D設計の初心者でも使用できるソリューションを必要としていました。」

電光石火
「私たちがテストした他のソフトウェアでは、最終的なメッシュを生成するのに1時間以上かかりました。我々は一日あたりに何千ものデザインを生成したかったので、これではいけませんでしたし、それにまた、設計の繰り返しに多くの時間がかかることも意味していました。」
「nTop Platformは、これらの両方のニーズに対応しています。」

複数のファイル形式
「設計工程では、STEPファイルと、一部の様式化されたパーツをメッシュ化したものの両方を使用しています。両方をインポートして、プロセス全体を通して使用できる製品が必要でした。」

拡張性のあるワークフロー
「再利用可能で、保守・拡張が容易で、相互にパラメータを渡すことができる設計プロセスを作成できる必要がありました。この製品だけでなく、今後開発を計画している製品についても同様です。」
「nTop Platformの採用しているカスタムブロックシステムにより、これが可能になりました。」

プログラムに対等したインターフェース
「変数を簡単に入力できることは、私たちにとって非常に重要なことでした。また、プログラム環境に統合して、何も介在せずに設計を処理できることも必要でした。JSONを利用したコマンドラインがあることは非常に重要でした。」

ラティス構造とサーフェステクスチャ
「ユニークなラティス構造を作成して操作することは、重要な要件の1つでした。また、サーフェステクスチャの生成と適用も必要でした。私たちは、nTopologyが本当にこの分野のリーダーであることがわかりましたね。」

ラベリングとシリアル化
「製品に個別のラベルをつけることは、顧客にとっては自分のマークをつけることができるという意味になり、素晴らしいカスタマイズの方法だと感じました。また、製品を商業的な方法で各顧客向けに出荷するために、製品に独自の識別子を追加する方法も必要でした。」

次のステップ

Impact Footwearは、初の製品である「Impact F1 Flip Flop」を2021年初頭にクラウドファンディングキャンペーンで発売します。彼らの3DカスタマイズWebツールはすでに彼らのWebサイトで公開されています。今後も、彼らは製品を改善し、また、季節ごとにプロモーションを展開するための、新しいサーフェステクスチャとラティスデザインを開発するためにnTop Platformを使用していきます。また、製品範囲の拡大も計画していて、 nTopの再利用可能なワークフローがこのプロセスを大幅に加速させます。

このプロジェクトについて詳しく知りたい場合は、DfAM for Industrial Design eSeriesの講演者としてCraigDeMerit氏をお招きしましたので、こちらの動画をご覧ください。彼は、設計、製造、統合、および製品開発プロセスのすべての側面について詳細にお話しくださいました。オンデマンド視聴

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