トポロジー最適化と金属3Dプリントによる アジャイル手法での産業用ロボットグリッパー

Preziosa Francesco SRL社 と Add-it社は、金属3Dプリント用の社内プレスブレーキ曲げロボットセルのグリッパーを再設計しました。
わずか4日でアプリケーションの準備は整い、システムの信頼性を高め、サプライチェーンのボトルネックを解消し、完全自動製造が可能になりました。

イタリアの板金メーカーPreziosa Francesco SRL社は、競争力を維持し、変化する顧客の要求に対応するために、各作業に合わせてロボットシステムを最適化したいと考えていました。しかし、新しいカスタムロボットグリッパーのセットをCNC加工するのにかかる長いリードタイムが、そのプロセスのボトルネックになっていました。

そこでAdd-it社との提携により、Desktop Metal Studio Systemを利用した部品生産の内製化を実現しました。その金属3Dプリントの価値を最大化するために、彼らはnTopologyで再利用可能な設計ワークフローを作成しました。

その結果、トポロジー最適化などの最新の設計手法を活用し、各作業に最適化したカスタムロボットグリッパーを製造する、エンドツーエンドの設計とデジタル製造プロセスが実現しました。

キーポイント
  • カスタムツールジェネレータ:再利用可能な設計ワークフローを作成し、カスタムメイドの産業用ツールやフィクスチャを迅速に生成。
  • テクスチャとラティスによるトラクション:カスタムテクスチャリングやラティスを追加し、3Dプリントされたフィクスチャのグリップ力を高める。
  • トポロジーの自動最適化:自動再構築によるトポロジー最適化を使用し、より小さなプロファイルでより機敏なグリッパーを作成。
事業価値
  • 市場の要求に適応:予期せぬ変化に対応し、複雑な仕事を引き受け、迅速なターンアラウンドタイムを提供する。
  • 自動車の軽量化:体積を減らし、熱処理を効率化することで、大幅な軽量化を実現します。
  • 設備投資を十分に活用:最新の製造プロセスを強力なソフトウェアツールで強化することにより、高価なハードウェア機器の性能を最大限に活用。

Key Statistics

アプリ完成まで
2週間もかからず
わずか4日

設計バリエーション
半日で4つの
バリエーション

軽量化
32%~40%

コスト削減
外部委託と比較
して35%の削減

製造
Desktop Metal Studio
System™

材料
ステンレス鋼
17-4 PH

バックグラウンド

Preziosa Francesco SRL社は、イタリアのベルガモに本社を置く板金キャビネットのメーカーです。過去40年にわたり、イタリア市場をリードしてきました。CEOのMarco Preziosaは、自社工場から出荷される製品の品質に誇りを持っています。また、顧客のニーズに合わせて標準ラインをカスタマイズする柔軟性も大切にしています。

Preziosa Francesco SRL社のエンジニアは、プロセスやワークフローを改善し、競争力を維持するための最新テクノロジーを常に探し求めています。現在、彼らの活動の中心にはロボットセルと自動プレスブレーキ曲げ機がありますが、この数十万ユーロの投資が、比較的安価な部品であるロボットエンドエフェクターのグリッパーのために危機に瀕していたのです。

ロボットグリッパーはカスタムコンポーネントであり、それぞれの板金作業の要件に合わせて変更する必要があることがよくあります。Preziosa Francesco SRLは、Additive Italia社(略称 Add-it)と提携し、金属アディティブ・マニュファクチャリング用にロボットグリッパーを再設計しました。Add-it社は、シミュレーション主導のエンジニアリングとジェネレーティブデザインを専門とするデザインコンサルタント会社です。

このケーススタディでは、Preziosa Francesco社と Add-it社がnTopologyの高度なエンジニアリング機能を使用して、ロボットグリッパーの再利用可能な設計ワークフローを作成した方法を記しています。この方法で、彼らはシステムの性能を向上させ、サプライチェーンの課題を回避することができました。

実用的なロボットグリッパー設計への挑戦

Preziosa Francesco SRL社は、Fanuc M710-iC ロボットアームを使用して、自動プレスブレーキ曲げ機に金属板を載せ、曲げ加工中にその位置を決め、維持し、適切なバスケットに部品を格納しています。

このシステムでは曲げ加工中の部品を扱うために、2つの金属製グリッパーを搭載しています。Preziosa Francesco SRL社の生産チームは、このシンプルなコンポーネントに関する3つの主要な技術的課題に直面していました。以下のように、製品の品質やシステムの生産性に直接影響するものでした。

標準の平面なグリッパーは滑りやすすぎる

CNC加工された元のグリッパーと板金の間の非効率的なトランクションにより、板金が曲げ中に動き、最終製品の精度が低下してしまう。

標準のグリッパーでは機敏さに欠ける

その大きさのために、特定の曲げ角度でグリッパーの側面が機械に衝突して、システムが停止する危険性がある。

カスタムグリッパーの製作に 時間がかかりすぎる

理想は、シートの厚みやブランクの大きさによって、異なるグリッパーを使用することです。CNC工場に外注すると最低でも2週間はかかり、これは受け入れられません。

ソリューエンドツーエンドの設計と デジタルマニュファクチャリングのワークフローションの概要

これらの課題を克服するため、Add-it社のエンジニアはアディティブ・マニュファクチャリング用のグリッパーを再設計しました。彼らは、金属部品を自社で迅速に製造できることから、Desktop Metal社のStudio Systemを使用した17-4 PHステンレス鋼の金属3Dプリントを製造プロセスとして選択しました。

ポリマー3Dプリントをオプションとして検討しましたが、それはすぐに見送りました。重工業用の用途では、ポリマーのグリッパーはすぐに摩耗してクランプ効率が低下し、時間の経過とともにプロセスの精度が低下してしまうからです。こうした用途の場合、再現性は不可欠でした。

このプロジェクトでは、簡単に再現できるプロセスを作ることが第一の目標でした。再利用可能な設計プロセスであれば、チームはグリッパーを迅速に修正し、各製造作業のニーズに合わせて調整することができます。そうすることで、エンドツーエンドのデジタル製造ワークフローを構築することができるのです。

nTopologyは、エンジニアリングチームにとって自然な選択でした。このプロジェクトのリード設計エンジニアであるGianluigi Rossi氏は、「さまざまなグリップを作ることができるので、すぐにnTopologyでプロジェクトを始めることを決めましたよ」と述べています。

ラティス構造によるグリップ力の向上

特に、高負荷条件下での正確な位置決めが必要な場合、摩擦だけでは十分なグリップが得られないことがあります。グリップ力を向上させ、曲げ加工の信頼性を高めるには、ロボットグリッパーにトラクションパターンを追加するのが一般的です。トラクションパターンの溝が柔らかい素材(ここではアルミ板)を変形させ、部品同士を機械的にかみ合わせることで、グリップ力を高めているのです。

Add-it社のエンジニアは、最初に2つの設計バリエーションを試しました。まず、グリッパーとストップリファレンスのアセンブリを1つのコンポーネントに統合しました。そして、サーフェス・ラティスを利用した溝と、ハニカム状のミシン目という2種類のパターンをグリッパーに適用しました。このささやかなDfAMの再設計の目的は、金属3Dプリントプロセスの精度を検証することでした。

その結果、ハニカム状のパンチングパターンのほうがより優れたトラクションを発揮し、金属3Dプリントで簡単に製造できることがわかったのです。この設計をもとに、後にさまざまなバリエーションが生み出されました。

そしてこのプロジェクト内で注目されたのが、反復の速さです。コンセプトからアプリケーションまで、4日もかからずに完成させたのです。この際立ったスピードの実現は、nTopologyの設計能力によるものが大きかったといえるでしょう。

従来のCADソフトからnTopologyに移行することは、革命的な飛躍です。まったく別の作業方法、考え方に接したのです。このソフトウェアは、同じワークフローを他のジオメトリで再利用したり同僚と共有するなど、新しい道を切り開くことができます。この作業時間の短縮は、他にはない、独特なのものだと思います。

Gianluigi Rossi, Design Engineer, Add-it
トポロジー最適化でより機敏なロボットを設計

グリッパーがプレスブレーキに近づくほど、プロセスの安全性と再現性が向上します。しかし、わずかな板厚の違いで、ある角度ではグリッパーが工作機械に衝突してしまい、停止してしまうことがあります。そこで、標準的なグリッパーをより細身のデザインに変更することで、ロボットの安全領域を広げ、機敏性を高めることができます。

これが、2回目の再設計の目的でした。Add-it社のエンジニアは、nTopologyのトポロジー最適化機能を使って、最適化された形状のグリッパーを生成しました。主な目標は、部品の重量を減らすことではなく、剛性、グリップ力、重量などの性能を同等に保ちながら、設置面積を小さくしたデザインを作ることでした。

トポロジー最適化したグリッパーにより、より繊細なロボット操作と、より小さな板金の取り扱いが可能になりました。「クランプの体積で節約すべきスペースを試算しました。それは数ミリの問題でした。それでも、この用途においてはその数ミリが重要だったのです」とRossi氏は述べています。

研究チームは、密度のしきい値を2段階に分けて、トポロジー最適化したグリッパーの2つのバリエーションを設計し、3Dプリントしました。nTopologyを使用することで、Rossi氏はトポロジー最適化の結果を自動的に再構築・平滑化することができ、他のソフトウェアでよく見られるような、時間のかかる手動のステップを回避することができました。手動で部品の形状を作り直す必要がないため、わずか数回のクリックで複数のバリエーションを作成することができたのです。

実は、Add-it社がnTopologyを使い始めた当初は、ソフトウェアの自動再構成機能を利用するために、Altair Optistruct®のようなサードパーティ製トポロジー最適化ツールの結果をnTopologyにインポートしていたそうです。今ではワークフローの合理化とレベル制御の向上により、トポロジー最適化におけるすべてのニーズにnTopologyを使用しています。

再利用可能な設計プロセスで プロセスの信頼性を確保

設計の予期せぬの変更はすべて、最終製品の品質に影響を及ぼします。グリッパーの場合、たとえ数ミリであってもプロセスの信頼性を左右する可能性があります。

Preziosa Francesco社では、再設計されたグリッパーによってプロセスの信頼性が大幅に向上しました。停止時間をなくすことで完全自動生産が可能になり、ロボット製造システムをフルに活用できるようになりました。

さらに、同社は必要な部品を数日で社内生産できるため、急なシステム変更にも対応できます。また必要に応じてプロセスを見直すことも可能です。nTopologyで作成された再利用可能な設計ワークフローは、Desktop Metal Studio Systemの製造機能を最大限に活用するために必要なリンクでした。

再現性の高いプロセスを持っていない場合は、日中だけの生産にならざるを得ません。これらのマシンを日中のみで稼働させることは経済的に非常に困難です。理論的には、非常に巧妙な生産システムを構築することができるでしょう。とことが安物の部品のためだけなのに、もし意図したとおりに動かなければ、何十万もの投資が危険にさらされてしまいます。我々はnTopologyのおかげで、Desktop Metal Studio Systemのロボット製造の可能性を最大限に活用できるようになりました。

Marco Preziosa, CEO, Preziosa Francesco SRL
次のステップ

新しいグリッパーが実際にその価値を証明したことで、Preziosca Francesco社とAdd-it社は現在、このプロセスを他の用途でも再現しようとしています。例えば、同社のパンチングマシンのクランプ交換や、スペアパーツの設計をしています。

現在のワークフローの改善についてですが、耐久性と信頼性を維持しながらも2倍の長さを持つ、新しいバージョンのトポロジー最適化グリッパーの作成方法をAdd-it社のエンジニアが調査しています。そうすることで、より機動的で柔軟なカスタマイズ可能なクランピングツールが誕生することとなります。